イタズラ

※無断転載・AI学習を固く禁じます。
「とりっくおあとりーと……です!」
 のんびりと読書していたシンクの前に現れたアリエッタの手には、いつも持ち歩いている奇妙な人形に加え、これまた奇妙な顔をしたカボチャの人形があった。
「何? 新しい人形でも見せびらかしにきたの?」
「……シンクはハロウィン、知らないの?」
 はろうぃん? 返ってきた答えにシンクは首を傾げる。その言葉に聞き覚えがなかったからだ。
「知らないなら、アリエッタが教えてあげる…! ハロウィンはね、お菓子を貰える日なの」
「ふーん」
 嬉しそうに目を輝かせて話すアリエッタに、シンクは気のない返事をする。興味が惹かれるような話ではなかった。任務にも関係なさそうだ。
 なのでシンクはさっさと本に視線を戻そうとしたのだが、突如目の前に小さな手が差し出される。
「だからシンクも、アリエッタにお菓子をくれたら嬉しい、です」
 なるほど、つまりは菓子をせがみにきたってわけか。やっぱり面白くない、とシンクは本に視線を戻す。
「悪いけど、ボクはそんなもの持ってないから、他を当たりなよ」
 だからさっさとあっちに行ってくれない?
 そう続けようとしたシンクの頬に、アリエッタがそっと触れてくる。やわらかいその感触の正体は指ではなく、くちびるで――。
「……え?」
 思考と体が停止してしまったかのように、固まったシンクの口から間抜けな声が漏れ出したのは、少し時間を置いてからのこと。
「お菓子をくれないから……イタズラ、です!」
 前にイオン様がこうするんだって教えてくれたと、嬉しそうに笑っていたアリエッタの小さな背中を、シンクはただただ呆然と見送る。
 ハロウィン。
 シンクにとって、それは忘れられそうにない日となった。
(by sakae)


END
(07-11-14初出)

送信中です

×

※コメントは最大3000文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!