だって好きだから

※無断転載・AI学習を固く禁じます。
「シンク、シンク」
 ボクを呼びながら、こっちに向かってくるのはアリエッタ。だけどボクは知っている。次に彼女の口から出てくるのは、間違いなくアイツの名前だ。
「あのね、イオン様が……」
 ほら、やっぱり。心底嬉しそうに話すのは、アイツの話ばかり。それはまあいつものことだけど、ボクからすればちっとも面白くない。
「何でボクに導師の話なんてするわけ?」
 そう言ったら、アリエッタは不思議そうな顔でボクを見上げる。それからまた嬉しそうに笑った。
「だってアリエッタ、シンクのこと好きだから」
「……アンタが好きなのは導師だろ」
 好きだって? 思わずボクは仮面の下で眉をひそめる。いつもいつも、イオン様イオン様ってうるさいくせに。
「うん! イオン様は特別だもん!」
 だからね、と彼女は続ける。
「大好きなイオン様の話、シンクにいっぱい聞いてもらいたい、です……!」
 何だよ、それって結局アイツが一番ってことじゃないか。一瞬期待しちゃったのが馬鹿みたいじゃん。段々ムカついてくる。……だけど。
 ボクに笑顔を向けるアリエッタ。こうやって嬉しそうに笑って呼ばれるのは、嫌じゃない。だから嫌いなアイツの話だって、仕方なく聞いてやってるんだ。だから。
「ね、シンク」
 もっともっと、ボクを呼んでよ。そしていつかは、アイツの名前なんて出さずに、ボクのことだけを呼ぶようになればいいのに――。
(by sakae)


END
(07-12-03初出)

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