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「イオン様……どうして?」
……また始まった。
「アリエッタ、イオン様の為に頑張ってるのに……!」
ああもう、うざいんだよ。
「イオ、ン様」
疲れたからと言って地べたに座り込んで勝手に休憩していたアリエッタが、今度は泣きじゃくっている。
イオン様、イオン様とうるさくて仕方がない。前からと言えば前からのことではあるけれど、導師がダアトを出てアニス達と行動を共にするようになってからは、さらに拍車が掛かった。うざいったらないよ。
「イオン様ぁ」
……馬鹿みたい。あの導師はアンタの大好きな〝イオン様〟じゃないのにね。まあ別に、ボクには何の関係もないんだけどさ。
それより、さっさと集合場所へ向かわないとリグレットがうるさいな。アリエッタのペースに合わせてると、永遠にたどり着けないかもしれない。
「アリエッタ、いい加減に……」
「! イオン様!?」
ボクが声を掛けたのと同時に、アリエッタは伏せていた顔を勢いよく上げた。
どうせ導師に呼ばれたと早とちりしたんだろう。アリエッタいわく、ボクの声は導師に〝よく似ている〟らしいから。
「……シンク」
ほら、目に見えて落胆してしまう。力なくうなだれる直前に見えた薄紅色の瞳からは、再び涙が溢れ出していた。
残念だったね。ボクはアンタが大好きなイオン様じゃないし、その代用品のレプリカイオンですらない。代用品になりそびれた、ただの肉塊だ。
「いい加減に歩いてよね。さっきからうるさいし、迷惑なんだけど」
「……っシンクの意地悪!」
ようやく立ち上がったものの、アリエッタはまだべそをかいていた。辺りをうろついていたアリエッタのお友達が、彼女を庇うように僕達の間に割って入る。飼い主が飼い主だからか、ペットの方も鬱陶しいな。
「別に何だっていいけどさ、いつまでもグズグズしないでくれる? アンタに合わせてたら日が暮れちゃうよ」
もう付き合ってられない。ボクは先に進むことにした。
「シンクの、馬鹿…! イオン様と似てるくせに、シンクは全然優しくないっ!」
「……っ!」
ぐらり、と視界が揺れた。それでもボクはどうにか足を動かし続け、アリエッタから距離を取る。
……優しくない、ね。仮面の下で浮かんだのは、苦い笑み。
イオンばかりを見て、ちっともボクを見ようともしないアンタの方が、よっぽど意地悪じゃないか――。
(by sakae)
END
(07-10-10初出)
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