あたたかい

※無断転載・AI学習を固く禁じます。
 突如吹きつけた冷たい風に、思わずイオンは身を縮める。自分の体を抱きしめるようにして寒さに耐えながら、風が通りすぎるのを待った。
「……随分と寒くなりましたね」
 風が止むと同時に発した言葉に、前を歩いていた少女がぱっと元気良く振り返り、大きく頷いた。
「そうですね~、もうちょっとしたら冬ですもん。……イオン様って、寒いの嫌いでしたっけ?」
「いえ、嫌いではありませんよ。寒い日はあたたかいものが、いつも以上においしいですしね」
 そのセリフがとても導師のものとは思えないと、少女は笑う。
「イオン様ってば、意外と食いしん坊さんなんですねぇ?」
「アニスが前にそう言っていたんですよ?」
 それはまだ冬という季節のことすらろくに知らず、初めて体験する寒さにイオンが不安になっていた頃のことだ。
「えぇーっ! そうでしたっけぇ?」
「はい。確かに言っていました」
 冬とはそういうものだと、あなたが教えてくれたんですから。イオンは笑って頷く。
「アニスちゃん、そんな食いしん坊じゃありませんから! ……って、イオン様? 何でそんなに嬉しそうなんですか~!」
 どんなに寒くとも、どんなにつらく寂しい時でも。ただ側にアニスがいてくれるだけで、嬉しくて幸せになれる。
 共に過ごしてきた日々の中で、イオンはそれを知った。
「ふふ、秘密です。――さあアニス、帰りましょう」
 差し出した手に添えられた温もりに、イオンは笑みを深くした。
(by sakae)


END
(07-11-01初出)

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