会いたい

※無断転載・AI学習を固く禁じます。
 突然繋がった回線に、久しぶりにアッシュの顔を見たくなった。結構長いこと会ってない気がする。だから。
「会いたい」
 ただ一言だけそう告げた。そのあと繋げてきた時と同じように、一方的に回線は切られちまったけど。
 だけど別にいい。本気で期待しているわけじゃない。あいつが今どこにいるのかも知らないのに、会えるわけがなかった。そうだ。話が出来るだけでも充分だ。
「で? 何の用だ」
 そう、ただ声を聞けるだけでも――ってあれ?
 今の声はすぐ近くからした。それも頭の中に響くものじゃなくて、後ろから? つーか、そもそも回線はさっき……。
「間抜けな面してんじゃねえよ、屑」
 振り返ると、そこには俺の被験者が立っていた。態度のデカいそいつは、とても幻とは思えない。
「……お前、わざわざ俺に会いにきてくれたのか?」
 俺が言ったから? そう訊けば、睨みつけられてしまった。
「馬鹿か。同じ街にいると分かったから、直接話した方が早いと思っただけだ」
 勘違いしてんじゃねぇよとアッシュは続けたけど、何かすげー嬉しい!
「ありがとな、アッシュ!」
「だから違うと言って……! もういい。さっさと用件を言え」
「用件って?」
 何のことだ? 首を傾げたら、思いっきり頬を引っ張られた。いてぇ!
「お前がその口で! 会いたいと抜かしやがったんだろうがっ!」
「だ、だから単に会いたかっただけなんだって! ……いてて」
 バッと解放された頬を手でさする。ピリピリと痛むそこは、間違いなく赤くなっている筈だ。文句のひとつくらい言ってやろうとアッシュに向き直ってみると、彼は馬鹿にしたように笑っていた。
 くっそー! 心の中で叫ぶ。本気で腹が立ったわけじゃないけど。もう一度頬をさすりながら、息をついた。まあいいか!
「せっかく来てくれたんだし、ちょっとぐらいはいてくれるよな?」
「……ふん、仕方ねぇ。少しだけだからな」
 お前と違って暇じゃないんだと悪態をつきながらも、アッシュはすぐ側の建物の壁にもたれ掛かった。俺もその隣に移動する。目が合うなり、彼は眉間にしわを寄せた。
「何にやけてんだ。気色悪い」
「な、何だよ! 仕方ないだろ!」
 嬉しいんだからさ。そう言いながら伸ばした手は振り払われなかった。それがまた嬉しくて、俺は笑った。
(by sakae)


END
(初出不明…多分07〜08年のどこか)

送信中です

×

※コメントは最大3000文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!