トワイライト

※無断転載・AI学習を固く禁じます。
 偶然、街中でアッシュの姿を見つけて引き止めた。珍しくそんなに機嫌が悪くないようで、少し話も出来たし、俺は嬉しかったんだけど……。
「日が暮れるな」
 そう呟いたアッシュは空を見上げた。俺も同じように視線を動かすと、すっかり空が赤く染まっていたことにやっと気付いた。時間が過ぎるのはあっという間だ。もうじき夜になる。
「……もう行くのか?」
 返事の代わりに背を向けるアッシュ。俺はみんなとこの街の宿に泊まるけど、彼はすぐにでも出発するらしい。そもそもアッシュは、足りない物を買い足す為にこの街に寄っただけだった。アルビオール三号機ではノエルの兄貴も待っているだろうし、漆黒の翼だって一緒かもしれない。
 ただでさえ俺が引き止めてしまったせいで、時間をロスしているんだ。これ以上、彼らを待たせるわけにはいかないだろう。俺だって、早くみんなのところに戻らないと心配掛けちまうかもしれない。それはちゃんと分かっている。分かってはいるけど……。
「アッシュ」
 縋るような呼びかけにも、アッシュは応えてくれない。だけど、そのまま立ち去ってしまうこともなかった。俺に背を向けた格好のまま、立ち止まっている。
「アッシュ?」
 どうしたんだろう。気になって前に回り込む。それでも彼はじっと前方を見ていた。見ろ。声には出さずに目だけでそう促されて、アッシュの視線の先を追う。
 その瞬間、あっと勝手に声が漏れそうになった。燃えるような色をした太陽が、遠くの海に沈もうとしているところだ。綺麗だ。それ以外に、この光景を表す言葉を見つけられない。俺は立ち尽くしたまま、眺め続けた。
「……行かなくていいのか?」
 アッシュもまた、動く気配はない。相変わらず彼も吸い込まれるように夕陽を見ている。
「もう少し見ている。だから――」
 ふいにアッシュが俺を見た。それも、あまり見たことがない穏やかな顔つきで。
「お前も付き合え」
 少しだけ。本当に少しだけ、彼が笑った気がした。俺は頷いてアッシュの隣で夜を待つ。
 綺麗な夕焼け。確かにそれはすごくいいなって思った。だけど俺はそれよりも何よりも、アッシュが一緒にいてくれることの方が嬉しかった。好きだった――。
 やがて、街には静かな夜が訪れる。
(by sakae)


END
(07-12-05初出)

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