硝子のような片想い

※無断転載・AI学習を固く禁じます。
 頭が粉々になって砕け散ってしまうのではないか。自分でもそう思うくらいに、頭の中ではごちゃごちゃとした感情がごった返している。
「おい! ――だから言っただろうが!」
 怒鳴りながらも心配そうに手を差し出してくれている相棒を、しかしミルクは仰ぎ見ることすら出来ずに崩れ落ちたまま、荒れた大地を凝視し続けていた。闇の稲妻が走った地はそこらじゅう亀裂が入っていて、見るからに危ない。早くここから離れて怪我をした仲間の治療をしないと。を振りながら冷静に考えようとする。
 だが浮かんでくるのは先ほどまで戦っていた、漆黒の闇のようなあの男のことばかり。片側だけ開かれた赤い目は鋭く冷ややかで、その表情もった空気も、あの頃とは何もかもがまったく違っていて。
「王国に帰還するぞ!」
 よく通るその声はマドレーヌのものだ。ミルクはハッとして、放り出していた盾とステッキを手に立ち上がる。よろけそうになったが隣に立つ紅イモの手は借りなかった。手を取ってしまえば、りつきたくなってしまうと危惧したからだ。
「帰りましょう。僕らの居場所に」
「……ああ」
 腑に落ちないようではあったが、彼なりに気を使ってくれたのだろう。何も言わず、ぶっきらぼうに背を向けた紅イモのあとにミルクも続いた。
 そうだ、僕らは世界の平和の為に戦っている。その信念は変わらないし、決して揺らいではならない。だから、あなたが僕らの対岸に立つというのなら――。ステッキを握る手に力がこもる。
 ずっと心の中の宝箱にしまっていたそれは、いつか自らの手で壊さないといけないのかもしれない。胸に走った痛みに気付かないふりをして、ミルクは傷ついた仲間に優しい声を掛けていく。
(by sakae)


END
(21-02-20初出)
お題ひねり出してみた」さんからお借りしました。
ミルダクへのお題は『硝子のような片想い』です。

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