告白

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「だから僕は、ダークチョコ様のことが好きなんですよ!」
 はっきり言い切ってから我に返ったミルクは、瞬時に赤くなった顔を隠すように俯いた。いつものようにいかにダークチョコを慕っているか本人に力説しているうちに、うっかり胸に秘めていた想いまで口に出してしまったのだ。どうしよう。うろたえながらも、冗談だと笑って誤魔化すことだけは出来なかった。つい口を滑らせてしまったとはいえ、心からの言葉だったからだ。
 勇気を振り絞り顔を上げると、ダークチョコと目が合う。じっとこちらを見遣るその表情は、普段と変わらないように見えた。
「あ、あの……」
「……まあ、そうなんだろうな。お前はこのオレを尊敬していると、いつもそう言ってくれているからな」
 言いながらダークチョコは、すっと目を細める。
「お前のまっすぐな想いには救われてばかりだ」
「ダークチョコ様…!!」
 ミルクは感動しながらも、胸の奥でもやもやとしたものが渦巻くのを感じていた。敬愛とは別の〝好き〟が伝わっていないのは明白である。だが、すぐに伝え直す勇気もない。この想いを知ったダークチョコが一体どんな顔をするのか、想像もつかず不安になってしまったのだ。
 それでも数日思い悩んだ末、やはりきちんと気持ちを伝えようとミルクは決心した。
「僕は――あなたのことが、好きです!」
 爽やかな朝の空に響いたのは、上擦った告白。噛まずに言えたのが奇跡に思えるほど、ミルクは緊張してしまっていた。
 しかしダークチョコはというと、一度目の告白の時と同様にいつもどおりの様子だ。これは所謂脈なしというやつなのだろうか。けれども気持ちを伝えたうえで振られてしまうのなら仕方がない。肩を落としながらも早く気持ちを切り替えなければと、ミルクがぐっと拳を握りしめた時だった。ダークチョコが不思議そうに小首を傾げる。
「先日も聞いたばかりな気もするが、ありがたいな」
「な……何度言っても足りないくらいですよ!」
 またしても想いは伝わらなかったのだ。意気消沈したミルクは、そう言って笑うのが精一杯だった。
 先日は告げたタイミングが悪かったのだと今日は会って早々に告白したのだが、それはそれで突然すぎたのかもしれない。だけど、次こそは必ず! 素早く立ち直ったミルクは、今度はしっかりシチュエーションを考えて告白しようと心に誓った。

 数日後、ミルクはダークチョコを誘って夜の貿易港にやってきていた。トロピカルソーダ諸島に向かう船が出港すると、小さな港は途端に静かになる。夜の海で想いを告げるだなんて、想像するだけでロマンチックだ。ミルクは顔を赤らめる。
「あ、あの! ダ、ダークチョコ、様っ……!」
「どうした、寒いのか?」
 緊張のあまり声を震わせたミルクの顔を、ダークチョコが心配そうに覗き込んでくる。嬉しいが、余計にドキドキしてしまう。
「いえまったく!! むしろ暑いくらいですッ! ――ところで!」
 ミルクは何度も首を横に振りながら海を指差した。
「よ、夜の海って何だか素敵ですよねっ!」
「……そうだな」
 視線を海の方へと移したダークチョコのどこか楽しげな横顔に、ミルクの胸はさらに高鳴った。ざざあと小さな波の音がしたあと、辺りがしんと静まり返る。今なら――。こっそり意気込んだミルクより先に、目の前の海のような落ち着いた声が静寂を破った。
「同じ海でもリコリス海とはまったく違うな」
 言いながらダークチョコは空を仰ぐ。夜の海を明るくしてくれているのは常夜灯だけではない。
「月に照らされた海は本当に綺麗だ」
「……そうですね!」
 明るい夜を楽しめるようになったのは、彼自身があの剣を手放したからこそ。ミルクは口を引き結ぶと、しばらくの間夜景を楽しんだ。告白しそこねてしまったのは残念ではあるが、ダークチョコと穏やかな時間を過ごせたのはいい思い出となった。
 とはいえ、このまま想いを引っ込めるつもりもない。次の日、ミルクはひたすら机に向かっていた。ほとばしる想いのまま筆を走らせ、次々と白い便箋を文字で埋めていく。いざ面と向かって告白するのはとても勇気がいるものだ。これまで緊張のせいでうまく気持ちを伝えきれずにいたが、これさえ読んでもらえれば今度こそ伝わるに違いない。途中何度か便箋を切らしてしまったり用意していた封筒に収まらなかったりとちょっとしたトラブルはあったものの、どうにか夜には手紙を用意することが出来た。
 完成した手紙を前に、ミルクはごくりと唾を飲み込む。最初にイメージしていたかわいらしい封筒に入ったそれとは少し違うが、これは立派なラブレターだ。ダークチョコを想って自分がった、この世にたったひとつの。
 大きな封筒を大事に胸に抱いたミルクは、家を飛び出していた。とてもじゃないが明日の配達まで待っていられそうにない。そうして自らダークチョコの家のポストに手紙を投函すると、やってきた時と同様に全力で走り去った。
 今頃ダークチョコは手紙を読んでくれているだろうか。いや、気付くのは朝になってからかもしれない。家に戻ってからも考えるのはそのことばかりで落ち着かない。返事はいつ貰えるのだろう。そもそも、最後まで読んでもらえるだろうか。朝が待ち遠しい気持ちと同じくらい、不安も膨らんでくる。結局ミルクは一睡も出来ずに朝を迎え、そのまま家に閉じこもっていた。出先でばったりダークチョコと出くわしてしまったら、きっと正気ではいられない。
 期待と不安で震えるミルクの元をダークチョコが訪れてきたのは、その日の夕方のこと。おそるおそる玄関のドアを開けると、ひどく驚いた顔をされてしまった。
「顔色が悪いようだが大丈夫か?」
「全然大丈夫です! あのっ、それより、僕に何か……」
 消え入りそうな声になりながらもどうにか尋ねれば、ああと小さく頷いたダークチョコは手紙のことなんだがと神妙な面持ちで切り出した。
「自分への気持ちを書き起こされると案外照れくさいものだな」
「そ、そうですね……僕も書いてて、すごく緊張して……!」
 普段ならまっすぐ相手の目を見て言葉を返すのに、今はそれが難しい。目を伏せたミルクの肩を、ぽんと優しく叩くチョコレート色の手。
「お前の気持ちは痛いほどよく分かった」
「!!」
 バッと顔を上げれば、優しい笑みがすぐそこにある。
「あれほどまでにオレのことを慕ってくれているんだ。せめてこれからは恥ずかしくない生き方をしなければと、改めて考えさせられた」
 目を輝かせていたミルクは、あれと首を捻る。これは、もしかすると。
「えっと、他にはその、手紙を見てどう思いました?」
「うん? 手紙を見て、か……そうだな。パンパンに膨らんだ封筒がポストからはみ出ているのを見た時には、一体何が届いたのかと驚いたぞ」
 まるで気持ちが伝わっていない! 何故、とミルクは自分で書いた手紙の内容を必死に思い出す。まずはいつものように初めて出会った時のことから……と、そこまで考えて、最初に告白した時と似たような流れで好きですと書いてしまったことに気が付いた。ミルクとしてはストレートに伝えたつもりなのだが、あれだと敬愛しているという意味にしか捉えてもらえないようだ。
 ならばもう、もっと分かりやすく伝えるしかない。覚悟を決めたミルクはここがムードの欠片もない玄関先だということには目を瞑り、自分の肩に乗せられたままの手を取って両手で包み込む。
「確かに僕はダークチョコ様をお慕いしていますが、それとは別に愛してもいるんです。あ、仲間としてとかではなく……いえ、仲間としても好きではあるんですが」
「…………」
 グダグダになった告白を聞いて、ダークチョコは目を閉じた。今度こそ想いは伝わっただろうか。やがて目を開けた彼は、ふうと大きな溜息をつく。
「……そこまで言われてしまっては、もう知らないふりも出来ないな」
「え……?」
 思わぬ返答にミルクは目を見開く。気持ちが分かっていたなら、どうして。一気に押し寄せてきた不安に震え出した手が、ぎゅっと握り返される。
「オレなどにお前は勿体ない……そう、言いたいところだったんだが……っな!」
 言葉を詰まらせたかと思えば急に笑い始めたダークチョコを、ミルクは呆然と見つめていた。
「はは…っす、すまない。必死に好意を伝えようとしてくれているお前の姿が、あまりにもかわいらしくて、つい」
「なっ……!?」
 口をぱくぱくするミルクの頬を、ひんやりとした手が包み込んでくる。笑ったままのダークチョコの顔が迫ってくるのを、ただ見るだけしか出来ない。額に触れてきたそれが何なのかを理解した瞬間、いよいよミルクは意識を手放したのだった。
(by sakae)/


END
(24-10-07初出)
文字書きさんの性癖シチュ四大癖書 」で募集して「隠していた本音が漏れる/ミルダク」で書かせて頂きました!

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